2014年10月1日水曜日

ULTRA JAPAN 2014を経験して感じた"プロデューサーショー"というパッケージ力

先日の9/27・9/28にお台場にて日本初開催がされた音楽フェス「ULTRA JAPAN 2014」にVJとして参加した。ULTRAはアメリカのマイアミで毎年3月に開催される「ULTRA MUSIC FESTIVAL(以下UMF)」という世界最大級のEDM系フェスで、現在はヨーロッパ、イビザ、ブラジル、チリ、南アフリカ、クロアチア、韓国と世界中で開催されているお祭りです。どんな感じかは昨日アップされたばかりの本国ムービーをどうぞ。


本国では6日間開催され、延べ30万人以上の人が世界中から集まるフェスらしく、LEDやら花火やらレーザーやら演出面での規模がとにかく大きい。今年、日本初開催だったUMFは2日間開催で延べ42000人が参加していたそうで、人数では本国より少ないものの演出やステージの規模感は本国に負けないものになっていたと思う。ここまで当たり前すぎることしか書いてないし、本国や日本でのイベント雰囲気はいろんなメディアやニュースがレポートをアップしてるので、詳しく知りたい人はそちらをググってください。

いろんなメディアが今回のUMFを記事にしていたけれど、内容的に「誰々が出てフロアを沸かせた」「様々なスタイルで着飾った観客」「何々の曲がかかった」「新人では異例の大抜擢の日本人ルーキー」とかばっかりな印象なので、今回はUMFを経験して「EDMにおける演出」という面で感じた凄さについて書きます。あと自分はメインステージに出演したkz・banvoxのVJとして参加していたので、内側から見ていたVJの演出面が多めのブログになると先に言っておく。
(VJシステムの解説箇所は灰色字にするので、興味ない方は読み飛ばしてください。興味ある人はググってください)

VJという点で、まず声を大にして言いたいのが、LEDディスプレイ演出でV Squared Labsが来日していたということ。メディアは全く触れず、Twitterでも3人くらいしか書いてなかったけど、これ本当にすごいんです。彼らは世界中のUMFのLED演出を手がけているプロダクションで、他の音楽フェスだとCoachellaやEDCも手がけている他、単体アーティストのツアー演出なども数多く手掛けていて、Skrillexのこれとか


The Skrillex Cell from Production Club on Vimeo.

2012年のエレクトラグライドに、マッピングセットで来日したAmon Tobinのこれとかやってた人たちです。米ローリングストーン誌による『EDM界で最も重要な人物50人』リストにも唯一VJとして入っていたりする。


Amon Tobin ISAM v2.0 from V Squared Labs Inc. on Vimeo.

彼らはUMFの統括として乗り込みVJがいないアーティストを全般的に受け持っていた。具体的に有名どころだとMARTIN GARRIX、FEDDE LE GRAND、W&Wとかの映像を担当。

ここまでブログ書いといて、今回のUMFがどういうステージになっていたかを僕が全く説明してないことに気が付いた、、、すみません、下の写真みたいなステージでした。

https://twitter.com/ultra/status/516239260144250880



ちょっと分かりづらいかもしれないけど、DJブースとその上に16:9気味なLEDディスプレイ、上手下手にもそれぞれLEDディスプレイ、その間を埋めるように柱上のLEDディスプレイが計36本、さらに中央上に配置されたUMFロゴもLEDディスプレイという仕様。これをマッピング的に配置して出力です。ニコファーレでやってるLEDシステムのクソデカイ版と考えてもらっていいです。

V Squared LabsのシステムはMacBook Pro1台でVDMX(音ライン入力して波形解析用)とResolume(VJ素材主に名前など)の併用と、Windowsノート1台でTouch Designerというシステムだった。最終のマッピングはTouch Designerで基本柱LEDなどはVDMXからの音信号をヴィジュアル化してそれぞれの柱に映像を映すほか、Resolumeからの映像とYoutubeLIVEで配信していた生カメ映像を、V-440にてミックスしてキャプチャしていたと思う。MIDIコンはAKAI APC40とAKAI MPK mini MK2を両方Windowsノートに繋いでた。

V Squared Labsが凄かったのはステージを一つの舞台装置として完璧に使いこなしていたこと。LEDなんて今やフェスでは当たり前のように使われ、クラブでも使用することは多いし、コンサート演出などもLEDが多いと思うが、国内を見る限り使用方法としては制作した映像を写すという概念が多いとすごく思う。要はプロジェクターでやることと変わらないことが多いのだ。
VJをやっていて常々思うのは、カッコいい映像や面白い映像を流すことがVJではないということ。音楽やステージを視覚的に引き立たせるために、映像を使って空間を作り上げることがVJの一番重要な役割だというのが僕の考え方だ。それを自分は今まで実践できていると勝手に思い込んでいたが、V Squared Labsによる自分の理想像のようなVJプレイを目にして、自分はまだ空間を作ることに徹しきれてないと思い知らされた気分だった。それくらいにV Squared LabsがVJしただけで、自分もVJをしていたステージがまるで別物に見えた。実際V Squared Labsが写していた映像を、プロジェクターで写したりPC上で見たら全くカッコ良くないと思うが、UMFのステージで写したときの一体感やカッコ良さが本当にすごい。国内だと自分が高校時代から尊敬しているGlamooveのNuman氏のバランス感覚に近いかも。

ちょっとだけどV Squared LabsがVJしてたとき


ここまでは「V Squared Labsすげえ!」っていう僕の小学生並みな感想日記でした。
ここからはEDMシーンの演出面で何がすごかったのかという本題。今回、演出面で海外から来ていたのはV Squared Labsのみじゃないということ。
ヘッドライナーのHARDWELL、AXWELL ^ INGROSSO、AFROJACK、STEVE ANGELLO、ALESSO、KASKADEの6組は全員、専属のVJと照明が海外からの乗り込みだった。人によってはレーザーやPAなども専属でのチームで来ていた。以前Skrillexがインタビューで「Skrillexは自分だけではない。自分が矢面に立っているだけで、映像や照明やPAなどすべての演出を含めたチームがSkrillexだ」と語っていたように、今世界のEDMシーンはこのクラスのゲストになると専属の演出チームで動くのが当たり前のことになっている。昨年のRoad to ULTRAでもShowtekとAbove&BeyondのVJ・照明は乗り込みだった。そういう意味で、今回のUMFは演出チームごと来日してるからこそ出来るショーケースが目白押しだった。

ちなみに海外からの乗り込みVJたちのシステムに関して。
VJソフトは基本VDMXとMadmapperの併用かResolumeでのどちらかばっかだった。おおまかにAXWELL ^ INGROSSO専属VJはVDMX&MadmapperにAKAI APC mini、AFROJACK専属VJはResolumeにAKAI APC40 MkⅡ、STEVE ANGELLO専属VJはResolumeにAKAI APC40、KASKADE専属VJはVDMX&MadmapperにAKAI APC40、HARDWELLとALESSOは見れてないのでわからない。マッピングに関しては各々のスタイルという形で、一番細かいマッピングをしていたのはV Squared Labs。STEVE ANGELLO専属VJは柱LEDもすべて繋がった1枚絵に見えるマッピングをしたりしていた。VDMXを使っていたVJはストロボや色エフェクトの多様など飛び道具的な演出が多く、Resolumeを使っていたVJは決め打ちの歌詞映像などが多かった印象がある。オペレーションは全員その場でクラブVJと変わらないことをしており、ただ曲ごとの映像や操作がすべて決まっていたようだった。それと世界中のどのような形のLEDでも、同じ演出効果を与えられるように対応した、完全なシステム化されたものを感じた。

チームで動くことの強みは圧倒的に作り込みだ。照明とVJの組み合わせ方や、VJが消えた瞬間レーザーがつく、音に完璧に同期して炎や花火などの特効が出されるなどの演出。流れる曲ごとに、すべての映像や照明の色等が決まっていてオペレーションしていたことなどが印象深かった。
もちろん日本でもDJに対して専属VJというのは多々いるし、そういった作り込みをしている人たちもいる。VJ UNUの中市氏などは、DJのEMMA氏、照明のAIBA氏と共にTROUBLE HOUSE at WOMBで、毎月1曲まるまる映像を制作してDVJでプレイしてもらうということをやっていたのを見てきたし、DJ・VJ・照明というチームで演出をするという点で日本でも抜きん出たパーティーをしていたと思う。
けれど、プロデューサーで無い限りDJは選曲が毎回変わるため、曲単位での作り込みというのが難しいという現実がある。シビアな話しになるが、国内でVJがDJ専属をやってる場合、正直それを生活の糧にして制作に時間を割けているという実情はあまり例がない。
AXWELL ^ INGROSSOなどは違う国でのUMFなどとほぼ同じセットリストをプレイしていたと思うし、他のアーティストも必ず同じ選曲を毎週のように世界中でプレイすることで、資金を回収できるからこその作り込みだったと感じた。
その中でも特にショーとしての演出の凄さを感じたのはAXWELL ^ INGROSSO。PAブース上に今まであまり見たこと無い大きさのプロジェクターが2台スタック投影(明るさを2倍にするため2台を重ねて映写する)で設置してあった。

ずっと何に使うんだろうと思っていたが、AXWELL ^ INGROSSOがスタートするとDJブース全体が巨大な黒布で覆っていて、音にあわせロゴがその布に映し出され、ベース音が入ってくると共に黒布が落とされるという演出になっていた。そのたった1分間の映像を写すためだけにプロジェクターが用意してあったことを知って本気で驚いた。これ以外にも自分たち用にLEDステージを大きくしたり、ロゴの形に光る照明セットを用意したりと盛り盛りな演出だった。ちなみにこのプロジェクター、レンタル業者の人に見てもらったら「1dayレンタルで2台本体のみで300万前後くらいかな」だそうです。(たぶんこのプロジェクター
違う国で同じセットの映像が上がってたので、どんな感じかはこっち見て。このムービー見る限りは選曲も映像もUMFと全く同じでした。

UMFはすべてYoutube LIVEでの中継をしていて、そのライブ中継に対して「またDJやってるフリをしてる」とか「セットリストが最初から決まってるDJなんて」というコメントも見かけたが、それに対して「だからなんだ」と問いたい。フロアの空気を読んで選曲をしたり、その場でのミックスを楽しめることこそクラブシーンの醍醐味だという意見も理解しているが、UMFにおいては"プロデューサーによるショー"を楽しむフェスだと思う。実際、去年ベルギーのTomorrowLandに遊びに行ったとき、飛行機で隣に座っていた女性と話したらクラブに行ったことは無いと言っていたが「EDM好きでデビッドゲッタの○○の曲と○○の曲が聴きたい!あとAviciiのあの曲も聴きたいの!」と楽しそうに語っていたし、今回のUMFにもクラブには来ないがEDMシーンのプロデューサーが好きというお客がたくさん見受けられた。お客さんが見たいものと見せ方は合致しているし、そもそも趣旨が違うことを、「EDMフェスとクラブ文化」のような対比で比較すること自体がナンセンスだと僕は思う。それにセカンドフロアではMark Knightなどがすごく良いDJやっていたりと、ショーではないダンスミュージックの楽しみ方も提供していたとも思う。
また、それを痛烈に感じたのは関係者のアフターパーティーで、AFROJACKが本番のステージとは打って変わってすごく良いディープハウスセットのDJを2時間くらいやっていたのを見たこと。アフターパーティーでこれぞクラブの楽しみ方というDJをAFROJACKがやっていたからこそ、UMFのステージはプロデューサーによるショーでありエンターテイメントなんだなとさらに感じた。
「EDMのせいでこれまでの良きクラブの楽しみ方が誤解され壊れる」という意見を耳にすることもたまにあるが、EDMのおかげでお客さんがプロデューサー・トラックメーカーに着目する時代になったことなどメリットだって多々ある。そしてなにより、客層もフロアが求めているモノもまるで違うのだから、EDMを批判する前にEDMとは違うクラブの楽しみ方もあることをしっかり伝えることのほうが大事だと、自分もクラブの様々な楽しみ方を多くの人に知ってもらいたい一人として思う。(このへんは2年前のDeadmau5ボタンプッシャー発言騒動とか読むとさらにわかるかと)

それにしても、去年TomorrowLandに行ったとき書いた記事(Tomorrowland2013を体験しEDMに思ったこと)はEDMの共有感という内容だったが、どちらかというとTomorrowLandはテーマパークのようなエンターテイメントで、かなりヨーロッパ的なフェスだったのだなと今になって思う。UMFは完全にアメリカのショーエンターテイメントのパッケージ力をとにかく感じた。TomorrowLandにしろSensationにしろID&Tが仕掛けるフェスはイベント全体のパッケージ化、UMFはパッケージ化されたプロデューサーのショーをたくさん見せてるといった内容。どちらも演出面の話題で大きくなった音楽フェスだとは思うが、この方向性の違いを認識できたのはとてもよかった。あと自分もVJということもあり、UMFはひたすら勉強になったし、「空間を作る」「ショーを作る」という考え方を初心に帰らされる良い機会だったなととても思う。
UMFは1dayチケット代が1万円だったようだがAXWELL ^ INGROSSOとAFROJACKのショーを見るだけでも元が取れるような内容だったと思うので、来年も開催される場合はぜひとも一度見に行くことをオススメして、今回のブログは以上、ULTRA JAPAN 2014を経験して感じた"プロデューサーショー"というパッケージ力について。


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